鎮鳴鍼の臨床

症状 老人性難聴(感音性) 耳鳴り

W・Nさん 82歳 男性

貴院には4年近く通っています。坐骨神経痛と心臓疾患からの動悸と息切れの軽減が目的でした。最近は、ほとんどその症状が取れていたので、養生で定期的に通っていました。ある日、急に激しい耳鳴りで左耳が聞こえなくなり、心臓で通っている大学病院で診てもらうと、感音性の老人性難聴という診断が下され、ステロイド剤の服用を勧められました。医師からは「1ヶ月程様子をみて、改善の兆しがみえなかったら完治は難しい」とも言われました。

担当者より定期的に来院していたのに1ヶ月を過ぎても来院しないので、心配になっていた矢先、ひょっこり顔を出し、開口一番、耳がまったく聞こえなくなってしまったと言ってきた。医師から処方されたステロイド剤は、頻繁に処方される感音性難聴の薬剤である。原因がつかめない疾患に対しての、常套手段である。確かに特効的に効いたという話を聞くが、これは特に若い方に多く、ストレスが原因と思われる例には奏功するようだ。ただし、高齢者は加齢により内耳の機能が低下しているので、たとえストレスが直接的な原因だとしても、改善がみられないケースが多い。この患者さんも、大腸の病変が、要精密検査と言われたことが心労となり、2~3日熟睡できなかったことが直接的な原因と思われるが、もともと聴力が低下していたという遠因もある。ステロイドを服用して1ヶ月が過ぎていたので、不安もひとしおではなかっただろう。通常は耳の周りや耳の内側にあるツボや、頭や背中にあるストレスを緩和するツボに治療を施せば、完治する例が多いのだが、この患者さんには老化による感覚器官の機能低下も同時に行わなければならない。足には照海(しょうかい)や水泉(すいせん)、然谷(ねんこく)といった老化による諸症状を緩和させるツボがある。これらのツボも活用して、治療にあたったところ、1回目で耳鳴りの音が激減し、大きな声だったら聞こえるまでに改善した。その後、一進一退を繰り返すも、同じような状態で安定している。現在、良好な右耳の機能を落とさないように予防的な治療も行っている。

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